ふるきをたずねてあたらしきを知る。今回は地域の文化史にみられる、そうじの技術をさぐっていきましょう。
現代にも通用する古来の掃除方
掃除に重曹などを使うのはもう一般的になってきましたが、もともとは胃の酸度を調整する特性がある為に、胃薬としてつかわれていました。
さてそんな胃薬に使ったような物で掃除できるの。?・・・という疑問をもつ方もおられると思いますが、その秘密はph(水素イオン濃度)にあります 多くの家庭用洗剤が弱アルカリの性質を持つのはご存知かと思いますが、つまり、重曹も弱アルカリ性の性質をもつものなんです。
実は理にかなった掃除方法なのですね。
嬬恋村の民俗誌に見る古来の掃除技法
ココに洗濯について面白い話があります。昔は実際に広く行なわれた方法だそうですが・・・、
洗濯には灰のアク水を用いた。
桶に灰を入れ適量の水を加え上の水を使った。
また、糠を布袋に入れて洗濯物と一緒に洗う事もあった。
うどんをゆでた湯で頭の髪や手拭を洗った。
豆腐を作った時の水でも、同じように頭の髪や手拭を洗った。・・・(袋倉集落)洗濯には灰のアクを水の中に入れ、アクを沈ましてから使う。・・・(三原集落)
「洗濯の民俗」・・・群馬県民俗調査報告書第15集「嬬恋村の民俗」より抜粋。
との事。 灰汁は強アルカリ性の性質がありますので、汚れを落とすのに最適な方法だったんでしょう。今考えても有効な手段です。
灰を扱う江戸時代の商人
灰について調べてみるとなんと・・・、江戸時代では囲炉裏端の溜まった灰を専門に扱う商人も多数いたそうです。 すこし質問です。その商人は一体何のために灰を買っていたのでしょうか。?『洗濯のため・・・。?』いいえ、実は染色のために灰を買っていたのです。
染色と灰の関連性
非常に興味深く面白いなと思うのは、灰で汚れを落とす事もできるのに、灰で染める事もできるということについてです。不思議だと思いませんか・・・。私は不思議だったのですこし掘り下げて調べてみました。
すると灰で直接染めるのではなく間接的な利用方法があったようです。実際は媒染に使うのだそうです。
媒染というのは、染めつかない染料を染めるように手引きをする役目と、染まった染料の発色を助ける役目の二つがあると一般的に言われています。 それが現代ではあまり染めには使われなくなったというのは、いささか奇妙に思えたので、専門の方に尋ねてみました。
その答えによると・・・『実は染織の媒染に灰を用いる場合、そのアルカリ特性の利用というよりも、燃した木に含まれる金属イオンの働きが、重要な要素をしめている』との事です。
でも、このような地域の民俗文化が忘れられているのは残念ですね。こういう事を顧みると、”おそうじ”は、我々が生きてゆく上で、とても重要な生活技術なんだと再認識します。身近な掃除道具一つとってみても過去から脈々と受け継がれた物なんですね。